Netflix『モンスター:エド・ゲインの物語』レビュー|なぜ彼は現代ホラーの”原型”となったのか?
2025年、Netflixがまたしても世界を震撼させる問題作を投下しました。
ライアン・マーフィーが手掛ける大人気実録犯罪シリーズ『モンスター』。
その第3弾が、『モンスター:エド・ゲインの物語』です。
こんにちは!YOSHIKIです。 今回焦点を当てるのは、アメリカ犯罪史上、最も異質な男、エド・ゲイン。
彼の事件は、後に『サイコ』や『悪魔のいけにえ』、『羊たちの沈黙』といった、数々の伝説的ホラー映画を生み出す”原型”となりました。

この記事では、【ネタバレなし】で作品の見どころを、そして【ネタバレあり】で物語の深層を徹底的に解説していきます!
なぜ彼は、単なる殺人鬼ではなく「モンスター」の象徴となったのか。
その恐怖の根源に、一緒に迫りましょう。
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このブログでは、読者の皆さんと「作品を待つワクワク感」から「観終わった後の語り合いたい気持ち」までを共有するため、【随時更新】というオリジナルの記事スタイルを採っています。
これは、僕が考え抜いた、みんなと最高の映画体験をするための形です。
ぜひ、この場所で、一緒に物語を深めていきましょう!
🔴Netflixドラマ『モンスター:エド・ゲインの物語』基本情報!

まずはサクッと基本情報から。
製作総指揮はおなじみライアン・マーフィー。
そして主演は、この役のために狂気的な役作りをしたというチャーリー・ハナム…。
もう、傑作の予感しかしませんよね!
項目 | 詳細 |
作品名 | 『モンスター:エド・ゲインの物語』 |
原題 | Monster: The Ed Gein Story |
配信 | Netflix(独占配信) |
配信日 | 2025年10月3日 |
話数 | 全8話 |
企画 | ライアン・マーフィー、イアン・ブレナン |
キャスト | チャーリー・ハナム、ローリー・メトカーフ、トム・ホランダー |
ジャンル | 実録犯罪ドラマ、サイコスリラー、ホラー |
🔴【ネタバレなし】視聴前に知っておきたい!本作がヤバい3つの理由!
予告編やあらすじ、制作陣の情報から、僕が「これはヤバい!」と確信するに至った3つのポイントを紹介させてください!
①主演チャーリー・ハナムの狂気とリアリティ。実在の音声記録から生まれた「エド・ゲイン」
本作の成功の半分は、主演チャーリー・ハナムの神がかったパフォーマンスにあると言っても過言ではありません。
彼がこの役を創り上げる上で手にしたのは、逮捕からわずか2日後に録音された、唯一現存するゲイン本人の約70分にも及ぶ音声記録でした。
ハナムはこの音声を徹底的に聴き込み、声の抑揚や言葉の選び方、そして内面に渦巻くエネルギーまでを自身のものとして吸収。
その結果生まれたのは、猟奇的な行動の裏に隠された、人間的で、時に繊細さすら感じさせる複雑な人物像です。
彼の演技は、エド・ゲインを理解しようとする試みであり、それゆえに一層のリアリティと恐怖を僕らに与えるんです。
②これは殺人鬼の物語か、ホラー映画の誕生秘話か?異色のメタ構造
本作が他の実録犯罪ドラマと一線を画す最大の理由は、そのユニークな「メタ構造」にあります。
物語には、あの伝説的映画監督アルフレッド・ヒッチコック(演:トム・ホランダー)が登場します。
彼は、エド・ゲインの事件を題材に映画『サイコ』を構想する人物として描かれ、物語はゲインの現実の恐怖と、それがフィクションとして大衆に消費されていく過程を同時に追っていきます。
これは、ただ事件をなぞるだけではない、極めて野心的な試み。
現実の悲劇が、いかにしてエンターテイメントとして加工されていくのか。
その過程をヒッチコックという象徴的な存在を通して描くことで、視聴者である僕ら自身も、その「トゥルークライム・マシン」の一部であることを突きつけられるんです。
③「モンスター」シリーズ史上、最も戦慄的―。ライアン・マーフィーが描く恐怖の原点
Netflixは本作を「シリーズ史上、最も戦慄的なシーズン」と銘打っています。
その言葉は決して誇張ではありません。
エド・ゲインが殺害を自供したのは2人のみですが、本作の恐怖は、被害者の数のような分かりやすい指標から来るものではありません。
その恐怖の源泉は、より根源的なもの。
孤立した農場、支配的な母親との歪んだ関係、墓荒らし、そして人間の遺体から家具や服を作るという倒錯した行為…。
これらは、人間の最も原始的なタブーに触れる行為です。
本作は、単なる殺人事件の再現ドラマではなく、現代ホラーに登場するあらゆる「モンスター」たちの”誕生の物語”を描くことで、僕らの無意識下に潜む恐怖を呼び覚ますんです。
🔴Netflixドラマ『モンスター:エド・ゲインの物語』キャストとあらすじ!
●エド・ゲイン (演:チャーリー・ハナム)
主人公。
1950年代、ウィスコンシン州の田舎町に暮らす、物静かで孤独な男。
●オーガスタ・ゲイン (演:ローリー・メトカーフ)
エドの母親。
狂信的なまでに厳格な宗教観を持ち、息子を支配した人物。
物語の時点では故人だが、亡霊のようにエドを縛り続ける。
●アルフレッド・ヒッチコック (演:トム・ホランダー)
映画『サイコ』で知られる伝説的な映画監督。
エド・ゲインの事件にインスピレーションを受け、物語に関わる。
『モンスター:エド・ゲインの物語』【ネタバレなし あらすじ】
舞台は1950年代、雪に閉ざされたウィスコンシン州プレインフィールド。
支配的だった母オーガスタを亡くし、朽ちかけた広大な農場で一人静かに暮らす男、エディ・ゲイン。
近隣住民からは「少し変わっているが、無害な男」と見なされていた。しかし、町の金物屋の女主人が忽然と姿を消した日を境に、町の平穏は崩れ始める。
彼女が失踪する直前に店を訪れていたのは、エディだった。やがて捜査当局がエディの農場に足を踏み入れた時、彼らが目の当たりにしたのは、人間の想像力を遥かに超えた「恐怖の館」だった。
その発見は、小さな町を震撼させるだけでなく、アメリカ社会に新たな悪の”原型”を刻み込み、後世のポップカルチャーを永遠に変えてしまうことになる。
🔴Netflixドラマ『モンスター:エド・ゲインの物語』ネタバレなし感想!
鬼才の野心作か、倫理なき問題作か。これは、あなたの”覚悟”が試されるドラマ!
いやー…観終わった今、僕の心の中には、賞賛と嫌悪感という、全く逆の感情でぐちゃぐちゃにかき乱されています。
一言で言わせてください。
これは、とんでもない問題作です。
まず、映像、雰囲気、そして俳優陣の演技。
これらは、文句なしに一級品でした。
特に、支配的な母親オーガスタを演じたローリー・メトカーフの演技は、鳥肌モノ。
彼女の存在感だけで、このドラマを観る価値がある、とさえ思いました。
主演のチャーリー・ハナムもまた、キャリアを賭けたであろう怪演を見せてくれます。
しかし、本作が世界中の批評家から「許しがたい」「道徳観が欠如している」とまで酷評されているのには、明確な理由があります。
それは、物語の根幹に関わる、あまりにも大胆な「歴史の改変」です。
本作は、史実を忠実になぞるドキュメンタリーではありません。
むしろ、エド・ゲインという現実の事件を、ライアン・マーフィー監督特有のスタイリッシュで、時に悪趣味なフィクションとして再構築した、と言うべき。
「実録犯罪」のファンで、事実に基づいた正確な物語を求める人には、正直、全くおすすめできません。
でも、もしあなたが、史実を一つの「素材」として割り切り、ライアン・マーフィー監督が描く、一級のサイコホラー・エンターテイメントとして楽しめるのであれば…。
本作は、あなたの心に、忘れがたい傷跡を残す、強烈な体験になるはずです。
これは、面白いかつまらないか、ではない。
あなたが、この作品を許せるか、許せないか。
その覚悟が試されるドラマだと僕は思います。\
🔵『モンスター:エド・ゲインの物語』各項目別10点満点評価とレビュー
評価項目 | 点数 | YOSHIKIのひとことレビュー |
ストーリー | 4/10 | 物語の「面白さ」と、史実の「改変」。この二つは、両立しませんでした。フィクションとして割り切っても、少しやりすぎかな、という印象です。 |
映像美 | 8/10 | 文句なしに、スタイリッシュ。1950年代の、冷たくて陰鬱な空気感。朽ち果てた農家の、息が詰まるような閉塞感。その全てが、見事に表現されていました。 |
余韻・没入感 | 8/10 | 良くも悪くも、強烈な余韻が残ります。観終わった後、「一体、自分は何を観せられたんだ…」と、呆然としました。 |
リピート率 | 2/10 | 正直、もう一度観たいとは思いません。物語の結末を知った上で、この重い体験を繰り返すのは、かなり精神力がいると思います。 |
キャストの演技 | 8/10 | 母親役ローリー・メトカーフの演技は、満点以上。彼女の狂気が、この作品の評価を一つ上のステージに引き上げています。主演のチャーリー・ハナムは、少し好みが分かれるかも。 |
総合評価 | 6.0/10 | 美しい毒りんご。映像と演技は最高に甘美。でも、その芯には、倫理という名の猛毒が仕込まれている。覚悟がある人だけが、手を出すべき問題作。 |
🔴Netflixドラマ『モンスター:エド・ゲインの物語』【ネタバレ全開】衝撃の結末!
【⚠️警告:この先は100%ネタバレです!】
ここからは、物語の終盤で何が起こったのか、その事実を時系列で客観的に解説していきます。
まだ、視聴していない方は、閲覧にご注意くださいね。
【ネタバレなし あらすじ】
舞台は1950年代、雪に閉ざされたウィスコンシン州プレインフィールド。
支配的だった母オーガスタを亡くし、朽ちかけた広大な農場で一人静かに暮らす男、エディ・ゲイン。
近隣住民からは「少し変わっているが、無害な男」と見なされていた。しかし、町の金物屋の女主人が忽然と姿を消した日を境に、町の平穏は崩れ始める。
彼女が失踪する直前に店を訪れていたのは、エディだった。やがて捜査当局がエディの農場に足を踏み入れた時、彼らが目の当たりにしたのは、人間の想像力を遥かに超えた「恐怖の館」だった。
その発見は、小さな町を震撼させるだけでなく、アメリカ社会に新たな悪の”原型”を刻み込み、後世のポップカルチャーを永遠に変えてしまうことになる。
最後の引き金と、凶行の頂点
物語の最終盤、エド・ゲインの崩壊を決定づけたのは、地元の金物屋の女主人、バーニス・ウォーデンとの出会いでした。
しかし、彼女との関係も、母の幻影に「娼婦だ」と罵られたことで破綻。
エドは店で口論の末、銃でバーニスを射殺し、納屋で遺体を解体。
彼の凶行は、ついに頂点を迎えます。
この間、物語はエドの事件が『サイコ』だけでなく、『悪魔のいけにえ』のインスピレーションの源となる過程も、監督トビー・フーパーの視点を交えながら描いていきます。
地獄の発見と、逮捕の瞬間
連絡が取れなくなった母バーニスの行方を追う息子フランクによって、ついにエドの「恐怖の館」の扉が開かれます。
内部は腐敗した遺体や人皮のマスクで満ち、納屋ではバーニスの無惨な遺体が吊るされていた。
エドは、ついに逮捕されます。
取り調べで彼は殺人の記憶を否定しますが、死体を掘り起こして「記念品」を集めていたことは認めました。
裁きの天秤と、怪物の最期
精神異常を理由に、エドは裁判で裁かれることなく精神病院に収容されます。
現実と幻想の世界が交錯するなか、彼は医師から統合失調症と自己女性化愛好症だと診断され、自分が病のせいで殺人を犯したことを知り、泣き崩れました。
そして、ドラマは最大かつ最も物議を醸す「歴史の改変」に踏み込みます。
その頃、世間を騒がせていた連続殺人鬼テッド・バンディ。
エドは、FBI捜査官が自分に助言を求めに来たと「幻想」し、彼らに犯人逮捕に繋がるヒントを与えたと思い込みます。
しかし、これは全てエドの妄想でした。
自分が犯人逮捕の役に立てたと喜ぶ幻想の中、肺がんに冒されていた彼は、ついに最期の時を迎えます。
エドは幻想の中で、「お前を誇りに思う」と告げる母と共に、静かにその生涯を閉じたのでした。
🔴Netflixドラマ『モンスター:エド・ゲインの物語』【深掘り考察】この物語が僕たちの魂を揺さぶる4つの理由(ネタバレあり)
🔵深掘り考察①:『サイコ』は誰が作ったのか?ヒッチコックという”共犯者”
本作がただの実録犯罪ドラマではない最大の理由は、映画監督アルフレッド・ヒッチコックを物語に登場させた、その卓越した「メタ構造」にあると思います。
ドラマの中で、ヒッチコックはエド・ゲイン事件の新聞記事を読み漁り、そのおぞましいディテールに魅了され、やがて映画史に残る傑作『サイコ』を生み出していきます。
しかし、彼の役割は単なる歴史上の人物の再現ではありません。
彼は、この物語における「最大の共犯者」なんです。
考えてみてください。
ヒッチコックは、プレインフィールドで起きた現実の悲劇を、エンターテイメントという名のフィルターを通して大衆に届けました。
彼はゲインの歪んだ母子関係や倒錯した欲望を、ノーマン・ベイツという架空のキャラクターに昇華させ、世界中の観客を恐怖させ、そして熱狂させたのです。
本作の作り手であるライアン・マーフィーは、このヒッチコックの姿を通して、僕ら自身に痛烈な問いを投げかけています。
「我々もまた、エド・ゲインに夢中になっているじゃないか」と。
つまり、ヒッチコックは、僕ら視聴者の写し鏡。
僕らもまた、Netflixを通じて、エド・ゲインという現実の悲劇を「コンテンツ」として消費している。
彼の恐怖の館を覗き見て、その狂気に戦慄し、そしてどこかで興奮している。
このドラマを観ている僕ら自身が、ヒッチコックと同じように、現実の悲劇を、手に汗握るエンターテイメントへと変えてしまう、その「仕組み」の一部になってしまっている。
本作は、ただエド・ゲインを描くのではなく、エド・ゲインを「観てしまう」僕ら自身の姿を、ヒッチコックという鏡に映し出して見せつける、恐ろしくも知的な構造を持っているのです。

▼海外の反応は?絶賛と酷評の理由を、もっと詳しく知りたい?
このドラマが、海外の批評家やファンから「許しがたい」とまで酷評される一方で、なぜ一部では「傑作」と称賛されているのか?
その賛否両論のリアルな声をまとめた、こちらの記事もチェック!

🔵深掘り考察②:史実改変の功罪―なぜテッド・バンディを登場させたのか?
本作で最も大胆で、そして最も倫理的に議論を呼ぶのが、最終話で描かれた「エド・ゲインがテッド・バンディ事件の捜査に協力する」という、完全なフィクションです。
なぜ、これほど大きな歴史の改変を敢行したのでしょうか?
その答えは、彼が描きたかった「モンスターの進化論」にあります。
エド・ゲインは、50年代の孤立した田舎が生んだ、内向的な怪物でした。
一方、テッド・バンディは、70年代のメディア社会が生んだ、カリスマ性を持つ新しいタイプの怪物。
この二つの時代を象徴する怪物をフィクションの中で結びつけることで、マーフィーは「悪の系譜」を創り上げたのです。
「すべての世代が、自分たちのブギーマンを作り出す」というテーマの、究極的な表現でした。
しかし、この芸術的な野心は、大きな代償を伴います。
史実をここまで大胆に改変することは、現実の事件や被害者の存在を軽んじ、危険な神話を作り上げてしまうリスクを孕んでいます。
事実、ライアン・マーフィーの作品は、そのスタイリッシュさの一方で、「道徳観が欠如している」「悪趣味な見世物」といった批判を常に浴びてきました。
テッド・バンディの登場は、芸術的には成功しているかもしれませんが、トゥルークライムというジャンルが持つべき倫理観を揺るがす、危険な一線を超えてしまったのかもしれません。
🔵深掘り考察③:「母」という名の怪物―オーガスタ・ゲインが真のモンスターだったのか?
「モンスターは生まれるのか、作られるのか」。
本作は、明確に「作られる」という立場を取ります。
そして、その”作り手”こそが、彼の母親オーガスタ・ゲインなのです。
史実においても、オーガスタは狂信的な信者で、二人の息子を外界から隔離し、「女は生まれながらにして罪深い」と教え込み、徹底的に支配しました。
エドにとって、母は世界のすべてであり、神であり、そして恐怖の対象でした。
彼女の死後、彼がその部屋を聖域として保存したという事実は、その異常なまでの執着を物語っています。
ドラマは、この事実をゴシックホラーの領域にまで高めます。
死んだはずのオーガスタは、亡霊のようにエドの耳元で囁き続け、彼を支配する。
これは、本作を単なる実録犯罪ドラマではなく、一つの「ホーンテッドハウス・ストーリー」として解釈できることを示唆しています。
朽ち果てたゲイン家の農場は、単なる物理的な家ではありません。
それは、オーガスタという強力な亡霊に取り憑かれた、エド・ゲインの精神そのものなのです。
彼が行った墓荒らしや遺体の収集は、その呪われた家(精神)を、母の代用品で満たそうとする、悲痛で歪んだ試みだったのかもしれません。
そう考えると、本作の真のモンスターは、人間の皮を被ったエド・ゲインではなく、彼を内側から蝕み続けた「母」という名の怪物、オーガスタだったのではないでしょうか。
エドの犯した罪は決して許されるものではありません。
でも、その怪物を産み落とした土壌が、母からの精神的虐待という名の地獄であったことを、本作は痛烈に描き出しているのです。
🔵深掘り考察④:我々は”モンスター”を許せるのか?ライアン・マーフィーの悪趣味な問いかけ
僕がこの作品を「美しい毒りんご」と評した理由。
それは、本作が観る者の倫理観を根底から揺さぶる、極めて悪趣味で、しかし抗いがたい魅力を持った作品だからです。
海外の批評家たちが本作を「許しがたい」「道徳観が欠如した、ただの覗き見趣味」と酷評するのも無理はありません。
ライアン・マーフィーは、エド・ゲインという素材を使い、彼特有のスタイリッシュな映像美と、時に倒錯的な演出で、僕らの最も原始的な好奇心を刺激します。
それは、残虐な行為を美しく見せてしまう危険な行為であり、「皮膚マスクの裏にいる男に同情を求めている」と非難されても仕方のないことでしょう。
しかし、同時に、本作はゲインが受けた虐待や、診断されることのなかった精神疾患にも光を当て、彼が怪物になるまでの過程を丁寧に描こうと試みています。
その結果、僕らの心の中には、「許せない」という嫌悪感と、「理解できるかもしれない」という共感が、矛盾したまま渦巻くことになります。
これこそが、ライアン・マーフィーの真の狙いなのではないでしょうか。
彼は、僕らがこの作品を観て、その美しさに魅了され、同時にその倫理観の欠如に嫌悪感を抱くこと、その引き裂かれた感情の中で「自分はなぜ、こんなにも不道徳なものを楽しんでしまっているのだろう?」と自問自答することを、意図的に仕向けているのです。
彼の作品の「悪趣味さ」は、それ自体が目的じゃなく、僕ら自身の内なる闇を暴き出すための、最も効果的なツールなんです。
僕らが彼のスタイリッシュな映像に惹きつけられることで、僕らは悲劇をエンターテイメントとして消費するという「毒」を口にすることを許容してしまう。
そして、その行為を通じて、僕ら自身がヒッチコックと同じ「共犯者」であることを自覚させられるのです。
🔴Netflixドラマ『モンスター:エド・ゲインの物語』【まとめ】この記事で伝えたかったこと!

さて、長々と語ってきましたが、最後にこの恐ろしくも美しい問題作のポイントを、分かりやすく箇条書きでまとめておきましょう!
●このドラマは、映像美や俳優の演技は最高級だが、海外の批評家からは「倫理観が欠如している」と酷評されている、超・問題作だった。
●『サイコ』や『悪魔のいけにえ』の元ネタとなった、エド・ゲインの事件を描いているが、その内容は史実を大きく改変したフィクションである。
●物語に映画監督ヒッチコックを登場させる「メタ構造」で、「なぜ我々は、実録犯罪をエンタメとして消費してしまうのか?」という、視聴者自身への問いかけが隠されていた。
●ライアン・マーフィー監督のファンで、過激なサイコホラーとして割り切れるなら、強烈な視聴体験になることは間違いないが、事実に基づいた物語を求める人には、絶対におすすめできない。
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