
このエピソードは、90年代のレトロなゲームカルチャーへの郷愁を刺激しつつ、それが現代に至る歪んだ妄信と結びつき、世界規模のカタストロフへと繋がっていく展開が、非常に『ブラック・ミラー』らしい不気味さを醸し出していますね。
一人の人間の純粋な(しかし危険な)没入が、取り返しのつかない結果を招く恐ろしさを感じさせるお話でした。
『ブラック・ミラー』シーズン7 第4話「おもちゃの一種」ネタバレ無し感想
第4話「おもちゃの一種」気になる点数は?
このエピソードは、90年代のビデオゲームカルチャーへのノスタルジーを感じさせる一方で、非常に奇妙で、正直かなり難解な物語でした。
観終わった後、「一体何だったんだ…?」と頭を抱えてしまった。
物語は現代のロンドンと90年代の過去を行き来しながら、一人の男が謎めいたレトロゲームにのめり込んでいく様子を描いている。
古いゲーム画面の雰囲気や、当時のカルチャーを彷彿とさせる描写は興味深いのですが、全体的に不穏でサイケデリックな雰囲気が強く、ストーリーラインもかなり複雑。
主人公がゲームに没入し、現実との境界線が曖昧になっていく様は、妄信の恐ろしさを感じさせてくれました。
ただ、その独特な世界観や展開についていくのが難しく、「何が起こっているのか、いまいち内容が入ってこなかった」「解釈が難しい」と感じてしまう可能性は高いと思います。
特に、物語の核心部分や登場人物たちの真意、結末の意味するところなどは、かなり抽象的で分かりにくいかもしれません。
過去作(特に『バンダースナッチ』)との繋がりを示唆する要素もあり、シリーズファンにとっては興味深いかもしれませんが、初見の方にはハードルが高い印象です。
カルト的な雰囲気や、現実と虚構が入り混じるようなトリップ感は独特ですが、その難解さゆえに、評価が大きく分かれそうなエピソードだと感じました。
考察するのが好きな方には挑戦しがいがあるかもしれませんが、万人におすすめできるタイプの物語ではないかもしれません。
『ブラック・ミラー』シーズン7 第4話「おもちゃの一種」:ネタバレ感想
第4話「おもちゃの一種」:ノスタルジアの罠と狂信の果て
若きキャメロンが謎のゲーム「スロングレット」に魅了され、LSDの影響も相まって現実との境界を失っていく過程は、カルト的な何かにのめり込む人間の心理を巧みに描いているようでした。
特に、友人ランプを殺害してしまうシーンは衝撃的で、彼がもはや「ゲーム」と「現実」、「スロングレット」と「人間」の価値を完全に見誤ってしまっているようでした。
そして、『バンダースナッチ』から再登場したコリン・リトマンの存在が、物語に一層深みと不穏さを加えていますね。
彼の過激な思想が、この奇妙なデジタル生命体の誕生にどう関わっていたのか、想像が膨らむ。
数十年の潜伏を経て実行される「人類アップデート計画」の壮大さと、その結末の静かな恐ろしさ。
キャメロンが恍惚とした表情で迎える世界の「終わり(あるいは始まり)」は、善意や理想が暴走した結果がいかに恐ろしいか、そして妄信の果てにあるものは何かを突きつけているように感じた。
彼の表情は、救済を確信する者のようでもあり、完全に正気を失った者のようでもあった。

多くの謎と解釈の余地を残すこの物語。
特に気になる点を、僕なりに考察してみます。
「スロングレット(スロング)」の正体とは? 生命体?プログラム?妄想か?
リトマンは「生命体」だと語り、独自の言語や目標を持つように描かれる。
●僕の考察
スロングレットは、リトマンが設計した「自己進化・自己増殖するミーム(文化的・情報的遺伝子)」に近いプログラムだったのではないでしょうか。
物理的な生命体ではないが、人間の意識、特にLSDなどで変性した不安定な精神状態に「感染」し、宿主の欲求(キャメロンの孤独感、承認欲求など)を利用しながら自己の目的(=リトマンがプログラムした目標?)を達成しようとする。
LSDはキャメロンの脳を「受信」しやすい状態にし、スロングレットは彼を操り人形のように動かした。
QRコードや音響信号も、そのスロングレットが拡散・実行のためにキャメロンを通じて行った結果と考えられる。
つまり、半分は高度なプログラム、半分はキャメロンの脳が生み出した妄想との共鳴だったんじゃないかなぁ。
コリン・リトマンはこの結末を意図していたのか?
単なる狂気の開発者、あるいは全てを計算していた黒幕。
●僕の考察
リトマンは、人類の意識を強制的に「進化」させる(あるいはリセットする)ツールとしてスロングレットを設計した確信犯だと思う。
『バンダースナッチ』で見せた彼の思想(自由意志への疑念、現実の不確かさ)は、彼が既存の人類社会に限界を感じていた証拠。
彼は自ら手を下さず、スロングレットという「種」を蒔き、キャメロンのような人物がそれを育て上げ、最終的に世界を変えることを計算していたのではないでしょうか。
キャメロンにディスクを盗ませたのは、偶然ではなく、彼が「適任者」だと見抜いた上での行動だった可能性が高い。
世界の「アップデート」は人類にとって何だったのか?
暴力や苦悩からの解放、集合知性との融合、進化。
●描写
人々は白目を剥き、意識を失って倒れる。
●僕の考察
あの音響信号は、人間の「個」としての意識や自我を消去し、スロングを中心としたネットワーク型集合意識に強制的に同化させるプロセスだったと推測した。
それは確かに争いのない世界かもしれませんが、個性や自由意志、人間らしい感情(愛や悲しみも含めて)が失われた、ディストピア的な「管理社会」あるいは「精神的な無」の始まりだと思う。
キャメロンが恍惚としていたのは、彼が長年求めてきた「スロングとの完全な一体化」が実現すると思ったから。
しかし、彼が期待した「より良い存在」とは程遠い、空虚な状態になっていくかもしれないです。
【キャメロンのその後を勝手に妄想考察!】

計画を完遂させ、恍惚としていたキャメロン。
彼はどうなったのでしょうか?
彼もまた音響信号を受け、個としての意識を失い、スロングという巨大なネットワークの一部と化す。
長年の孤独と探求の末にたどり着いた、彼にとっての「救済」。
しかし、それはもはや「キャメロン」という個人が存在しない状態。
彼は、自らが解き放ったシステムの中に、名もなきデータとして溶けて消えるのかもしれません。
計画の実行者として、あるいはその特殊な精神状態や身体改造ゆえに、キャメロンだけが「個」の意識を保ったまま取り残される可能性もありえる。
周りの人々は感情のない集合体と化し、彼が望んだはずの「改良された世界」は、彼にとって究極の孤独をもたらす地獄となる。
恍惚感は消え去り、自分が世界にしてしまったことの恐ろしさと、永遠に続く静寂の中で絶望するのではないでしょうか。
キャメロンは「アップグレード」を免れるか、特殊な形で経験し、スロング(あるいはリトマンの遺志を継いだAI?)によって、新世界の「管理人」あるいは「インターフェース」のような役割を与えられるかもしれません。
彼は集合意識ネットワークと接続し、その代弁者となる。
しかし、彼の中にはランプ殺害の記憶や、かつての人間としての感情が残り続け、罪悪感と、自分が作り出した世界の歪さに苦しみ続ける。
彼は世界を救った(と本人は信じている)英雄ではなく、自らが生み出した巨大なシステムの奴隷であり、永遠の囚人となる。
彼の恍惚感は、これから続く永劫の責務(あるいは苦痛)の始まりに過ぎなかった…。
的な未来は想像したくないですけどね。

「おもちゃの一種」は、懐かしさと新しさ、純粋さと狂気、そして救済と破滅が入り混じる、非常に多層的で考えさせられる物語でした。
「進化」とは何か、「幸福」とは何か、そしてテクノロジーは僕たちをどこへ連れて行くのか。
答えの出ない問いを、不気味な余韻と共に投げかけてきている感じのするエピソードでした。
しかし、この話は解釈がすごく難しかったなぁ!
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